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KOHHの『DIRT』がやばいっす。

DIRT[初回限定盤]

 

ラッパーKOHHのニューアルバム『DIRT』がリリースされた。昨年リリースされた実質上のセカンドアルバム『MONOCHROME』で彗星のごとく登場して以来、ANARCHY『NEW YANKEE』での客演、今年の元旦に実質上のファーストアルバム『梔子』をリリース、6月にはミックステープシリーズの『YELLOW T△PE 3』を発表。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いでリリースラッシュを繰り広げる全身タトゥーだらけの青い髪の男。わずか1年のあいだに日本語ラップシーンの最前線に躍り出た感のあるKOHHだが、今作『DIRT』はその刹那的とも言える早さをそのままパッケージングしたかのようなリアリティーに貫かれた怪物的なアルバムである。

薬物中毒だった母や真偽はわからないもののどうやらオーヴァードーズで死んだらしい父親への愛憎、貧困の記憶とその裏返しの地位、名誉、金への渇望、セックスへの欲望と群がるビッチへの嫌悪感、「真実の愛」への探求、地元や仲間への愛とお里の知れぬ胡散臭い連中への警戒心。あるいは洋服やタトゥーへの純粋な耽溺。KOHHの魅力は、そんなスキャンダラスでありながらどこまでも人間臭い人生や日常から生まれる様々な感情や逡巡が吐露されるリリックの内容的な面白さ、そしてそれらがまさに生まれたての言葉として発声されているかのように感じられる単刀直入で毅然としたラップスキルにある。今作『DIRT』においてもKOHHの魅力は基本的に何も変わっていない。この一年で激変しただろうと思われる環境のなかで得た金、経験、感情は大きなものがあるだろうが、それでもKOHHは決してセルアウトせず、それどころかラッパーとしての表現力は広がり、言葉はますます鋭さを増している。有名になればなるほどその魅力は増しているようにも感じられるその一貫性は単純にカッコいい。

『DIRT』におけるリリックのテーマを一つに絞ることは難しい。が、以前に比べて生と死についてのストレートな言葉が多くなったことは特筆に値する。たとえば、アルバムのリードトラックであるM3の『Living Legend』における「Wanna be a living legend / 死んでる人より/ 生きてるのがいい / Wanna be a living legend / 生きてる伝説 / Wanna be a living egend / 死んだら意味ない」といった言葉や、M4に 『Now』における「Living living now we living now / シド・ヴィシャスにコベイン/ ヘロインとか滑稽 / 死ぬのなし生きるが勝ち」という言葉。あるいはDutch Montan~KOHH~SALUが「もし今日死んだら」をテーマにマイクリレーするM8『If I Die Tonight』における「If Die Tonight / 今日死んだらどうする / 今日死んだらどうする / If I die tonight / If I die tonight / いつ死ぬかわからない / けど今日死んだらどうする」という言葉。はたまた、M9『死にやしない』における「別に死ぬこと以外はかすり傷 / 別に / でも諦めたら生きてるうちに死ぬ / 生きてる間に死なないよう生きる」という言葉。

これらの言葉から推察できるのは、「何もないものを形にする」ことに成功したKOHHの「今」に対するとてつもない執着心である。ーKOHHの執着する「今」。それはアルバム全てから滲み出ているので是非聴いて欲しい。ただひとつだけ象徴的に歌われているアルバムのオープニングトラック『Be Me』のフレーズを引用しよう。曰く「I got money / You got money / We got Money / だから何? / みんなが勝手に噂している間に / おれたちあたらしい話 / 何もないものを形にするそれだけの話 / また虫が湧いてくる / 無視しないで進む / むしろ助けるそれぐらいでもいい / ビッチはどうでもいい / とりあえずおれらはおれらでやりたいように生きるから邪魔はいらない」。この後KOHHは「I know you wanna be me (おれみたいになりだいんだろ)」と歌うが、決してこれは挑発的な言葉ではない。むしろ(他の強い表現がそうであるように)KOHHの言葉もまた「あなたもわたしもいつか死ぬ。あなたはわたしになれないし、わたしもあなたになれない。だからあなたの今を生きなさい」という至極単純なメッセージに収斂しているように感じられるのである。他の人がこのアルバムを聴いてどんな感想を抱いたのかわからないが、自分はいささかささくれだった手触りを持つこのアルバムを聴いてとてもポジティブなメッセージを受取った。その表現の力強さにとてもじゃないが冷静ではいられなくなっている。

DIRT[初回限定盤]

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