30歳になってギャングスタラップにハマった。

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もうだいぶ前のことになってしまうが、渋谷のシネクイントで遅ればせながらN.W.A.の伝記映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』を観た。監督はF・ゲイリー・グレイ。何者でもない者たちがヒップホップに未来を見出し一致団結、あっという間に一世を風靡、やがては金銭トラブルからグループが瓦解、中心人物の死によって絆を取り戻す、というお定まりのストーリーだが、やっぱりどこか感動させらてしまうところがあった。何よりも観る前まではギャングスタラップのGの字も知らなかったような自分が一端のGラップファンを気取っていられるくらいに各々のキャラクターが丁寧に描かれていたのがよかった。極めて優れた「知った気になれる映画」である。気がつけば2月はギャングスタラップ関連諸作ばかりを買い求め、聴いていた。影響を受けやすいといったらそれまでであるが、それだけ伝記映画として優れたものであったということでしょう。警察に取り込まれたライブ会場で「ファック・ザ・ポリス!」を連呼して暴れている様を見せられて問答無用でぶち上がりましたので、もちろん音楽映画としても最高。

 

  • N.W.A.『ストレイト・アウタ・コンプトン』
    ストレイト・アウタ・コンプトン

    ストレイト・アウタ・コンプトン

     

    N.W.A.の傑作セカンドアルバム。1988年作品。今でこそ恐ろしいほどにポップミュージックのジャンルとして先鋭化しているヒップホップだが、28年前のヒップホップはこんなにもシンプルだった。ひたすら繰り返す骨太でファンキーなビートにのせて言いたいことをラップする。もちろんそれが「音楽」としてマスターピースになり得たのは、ドクター・ドレーの才能に支えられているのは間違いないわけだけれども、それを差し引いてもこの音楽のシンプルな力強さは、ヒップホップという音楽が何度でも立ち返るべきベーシックであると感じる。おそらくそれは、N.W.A.のメンバーの年齢もヒップホップというジャンルの年齢も若かったことに因るものだろう。できることが限られている中で為される表現は非常に純度が高いのだ。ヒップホップの青春期の結晶のような音楽である。より原初的な簡素さにフェティシズムを感じるのであれば、1枚目の『N.W.A. and the Posse』のほうもおすすめ。音楽が生まれる瞬間に何度でも立ち会うことができる。

 

  • アイス・キューブ『白いアメリカが最も望むもの』
    白いアメリカが最も望むもの

    白いアメリカが最も望むもの

     

     原題は『AmeriKKKa's Most Wanted』。アメリカとクー・クラックス・クランを掛けているわけですね。映画の中で本人とそっくりな息子が演じていたように、N.W.A.のリリックのほとんどはアイス・キューブによるもの。ハイスクールのバスの中で街を観察しながらメモにペンを走らせる姿はなんだか知的なかっこよさがある。ギャラの配分の問題が原因でアイス・キューブはグループを離れるわけだが、彼が出したこのソロファーストアルバムはN.W.A.の諸作とは一味も二味も異なる出来栄えとなっている。終始高いボルテージで怒りの言葉を吐き出していくアイス・キューブと呼応するように、ボムスクワッドによるトラックも終始前のめり。小野島大によるライナーノーツがかなり笑えるのだが(「断っておくが、おれは混じり気なしのロック・ファンである、ロック以外の音楽に一切興味はない。だから、おれの気に入った音楽は、音の形態はどうあれ、全てロックであると思っている。アイス・キューブもまた、まぎれもなくロックなのだ」)、そう言いたくなるのもわからなくもない。つまりグルーヴでフロアを踊らせるというよりは、フロアでモッシュ(暴動)が起こりそうな音楽なのである。それが何に近いかと言われたら、やっぱりパンク・ミュージック。矢継ぎ早にリリースされた2枚目、3枚目も基本的に路線に変わりはない。どれも名盤。

 

  •  ドクター・ドレー『ザ・クロニック』

    ザ・クロニック

    ザ・クロニック

     

     名盤の誉れ高いドクター・ドレーのソロ1枚目。N.W.A.が瓦解して(こう書くとプロレス団体の話のようだが…)、メンバーはそれぞれの道を行くこととなるのだが、中でも音楽業界の中で最も成功したのはドクター・ドレーで間違いないだろう。グループを脱退して1992年にリリースされた本作はN.W.A.の諸作からはとんでもなく遠いところに到達してしまった。実のところ自分は『2001』から聴いて先に衝撃を受けていたのだが、この『The Chronic』もとんでもないアルバムである。N.W.A.の音楽は現在の耳で聴くとサンプリングミュージック初期らしいシンプルさを感じさせるもので、基調となるのはあくまでもビートの反復である。対してドレーの音楽はここにベースラインを持ち込んだ。今でこそ(あるいはもしかしたら当時であってもそうかもしれないが)、ベースラインに重心を置いたヒップホップというのは決して珍しいものではないが、本作におけるベースのグルーブの古びなさは特筆に値する。それはたとえば現在のケンドリック・ラマーの音楽に直結していると言っても全く言い過ぎではない。ブイブイと唸るベースラインに豊かな上物が乗り、緻密なサウンドプロダクションがそれを包み込む。これ即ちGファンク。N.W.A. and The Posseの愛すべきチープなサウンドから僅か5年でここまで先進的なアルバムが生まれてしまったことは驚愕しかない。必聴。

 

ここで挙げた以外にもコンプトンズ・モスト・ウォンテッドとかサウンス・セントラル・カーテルとかもちろんスヌープ・ドッグとかをシコシコと聴いていた2月。30歳になって初めてハマる音楽がギャングスタラップだとは想像もしていなかった。まだまだ先は長く、夢中になれる音楽はいくらでもある。40歳になったとき俺は何を聴いているだろうか。

 

2001

2001

 

 

ドクター・ドレー・プレゼンツ・・・ジ・アフターマス

ドクター・ドレー・プレゼンツ・・・ジ・アフターマス