Walky-Talky's Journal

INDIE POP FANCLUB

APPLE MUSICで聴けるシティポップの名盤10選(70年代編)

はじめに

Youtube以後、 Discogs以後、Vaporwave以後、「YOUは何しに日本へ?」以後、海外からの注目をフィードバックするように、昨今国内でも再評価の機運が著しいジャパニーズ・シティ・ポップ。何をもってシティポップとするか?というところは、すべてのサブジャンルが明確に定義ができないことと同じように、答えを出すことは難しいものですが、ここでは"City Soul"という視点で主に海外の音楽をコンパイルしたディスクガイド"CIty Soul 1970s-2010s"の編著者・小渕晃氏の言葉を借りることにします。曰く、

(シティソウルとは)1、制作者の深い音楽知識、リスニング体験をもとに、ソウルとジャズ、ロックなどのクロスオーヴァーにより生み出される洗練されたポップ・ミュージック。2、ヒップホップが世界の音楽シーンの中心にあるいまの観点でセレクトした、ヒップホップ世代にも受け入れられる、ある種のグルーヴを備えた作品

そして、「このあえて限定しすぎないゆるやかな定義に沿って、(中略)いまの耳で聴いて心地いい作品をセレクトしました」と続けています。この「ゆるやかな定義」は自分の感覚としても共感できるもので、要はレアグルーヴ以後の感覚でピンとくるものだったらほとんど何でもいいわけです。そこに「洗練」と「ある種のグルーヴ」さえ見出だすことができれば。だから、「何をもってシティポップとするか?」ということは、大げさに言えば聴き手の度量もある程度試されているわけで、そうしたこところから、ある音楽が「シティポップ」と定義付けされていることに対して、「何か違くね?」と違和感を持ったりするわけですね。まあ、聴き手が十人いれば十通りのジャンル観、音楽観があると思うので、違和感は違和感のまま止めておくとして。

前置きが長くなりましたが、ある種ブームに乗っかってこのジャンルの音楽を自分も最近よく聴いており、色んな発見があります。その中から今回は「APPLE MUISICで聴くことのできる70'S JAPANESE CITY POP」と限定して、特に琴線に触れたものを10枚まとめて記事にしました。ただし、山下達郎大貫妙子細野晴臣大瀧詠一吉田美奈子などレジェンド級のものは方々で語り尽くされているので除外。さらに個人的な好みから選盤はライトメロウ寄り。マニアックな方からはベーシックなものばかりかもしれませんが、レジェンド級のものから一歩だけ踏み込んだ選盤として参考になれば幸いです。どれもアルバム通して聴けるものばかりです。

Bread & Butter "バーベキュー" (1974)

バーベキュー

バーベキュー

 

 1974年リリースのブレッド&バターによるサードアルバム。「兄弟フォークデュオ」と聞いて正直言ってしみったれたイメージしか持っていなかった自分に恥じ入るばかりのウィットに富んでグルーヴィーな一枚。目玉はやっぱり山下達郎もカヴァーをした(2)「ピンクシャドウ」


ピンク・シャドウ/ ブレッド&バター

どう聴いたって2019年現在のクラブでも現役でいけるフロアライクなグルーヴとソウル。キャラメルママの面々やサディスティック・ミカ・バンド小原礼らがバックアップしているので、それだけで質は保証されたようなものだが、それにしてもこの曲のアコースティック・ファンクは別格に時代を超越している。この曲があまりに突出しているものの、インディーフォークロック然とした(7)「地下鉄」やドリームポップとも接続出来そうなメロウなサイケデリックチューン(11)「朝の陽」など、他の曲も良曲揃いで、アルバム通して聴ける一枚。


Bread & Butter - Chikatetsu [地下鉄] (1974)


荒木和作、やまだあきら "和作" (1974)

和作+2

和作+2

 

 1974年にミッキー・カーチスの協力により制作された荒木和作&やまだあきらのトリオレコードからのデビューアルバムにしておそらく唯一のアルバム。妙な光の当たり具合のポートレートと違和感しかないフォントの「和作」からなるジャケットが異様な雰囲気を出している一枚だが、今回唯一名前すら聞いたことのなかったこのユニットのアルバムには結構驚かされた。大瀧詠一カーネーション直枝政広を思い起こさせる甘く色気のあるボーカルにニューミュージックともフォークミュージックともつかない独特のサウンド。まさかのティーンエイジ・ファンクラブのある側面を想起させるような牧歌的なコーラスギターポップ、 (1)「ドライブ日和」や、もはや大瀧詠一「A LONG VACATION」のデモ音源にしか聴こえない(3)「五月薫風」、シルキーなエレキギターサウンドが確かな情感を喚起させるスローなメロウチューン(6)「雨がたえまなく」など、各々の楽曲のメロディー、コーラスワーク、ギターサウンドは今聴いてこそ響くものがある。残念ながらこのユニットでは本作しかリリースしていないようだが、後にニューウェーヴ・エレクトロバンド・FAY'sなるユニットで音源をリリースしていたようなので、そちらも音源が聞けるようならチェックしてみたい。


尾崎亜美 "SHADY" (1976) 

SHADY(紙ジャケット仕様)

SHADY(紙ジャケット仕様)

 

全曲松任谷正隆が編曲をした1976年リリースの尾崎亜美のデビューアルバム。ミュージシャンも鈴木茂林立夫松任谷正隆といったティンパン系から松原正樹斉藤ノブ、さらには"AMII's Army" として山下達郎吉田美奈子がコーラスで2曲((8)「風の中」(10)「追いかけてきたけれど」)で参加するなど超豪華。だが、軸となるのはやっぱり尾崎亜美のソングライティングセンス。当時、元祖・ポストユーミンとして名を馳せていた尾崎亜美。バブル以降の華やかなイメージも強いユーミンだが、70年代のユーミンはどちらかというと暗い曲調の中にポップスの魔法を忍ばせるようなシンガーソングライターだったわけで、尾崎亜美のこのアルバムも一聴すると地味な印象もなくはないのだが、手の届く範囲の事象をポップスに昇華させる才能は確かにこの頃のユーミンとどこか似たところを感じさせる。スタジオミュージシャンスタジオミュージシャンになる前の、才能のあるシンガーソングライターに才能のあるミュージシャンが集まってバックバンドをやっているような、仄かにインディーズ的な香りがするところもまた良い。


Ami Ozaki - 冥想 (1976) [Japanese Soul]

映像喚起的な(1)「プロローグ」からチェレスタの音が印象的なタイニーポップス(2)「影絵の街」の流れや、ローラ・ニーロマイケル・フランクスなどのSSW〜AORの空気を感じさせる(4)「私は何色」、穏やかなそよ風のようにライトにグルーヴする(8)「風の中」など、良曲揃い。中でも人気の高いデビューシングル(7)「瞑想」は、尾崎亜美のソングライティングの確かさと軽さの中にグルーヴを見出だすバックバンドの力が如実に表現された名曲。


ラジ "HEART TO HEART" (1977)

Heart To Heart

Heart To Heart

 

 相馬淳子名義で参加していたポニーテールを脱退後にリリースされたラジとしてのファーストアルバム。(5)「愛はたぶん」を除いて編曲は全て後藤次利。参加ミュージシャンは後藤次利加藤和彦高橋幸宏今井裕といったサディスティック・ミカ・バンド系から、鈴木茂斉藤ノブ坂本龍一、ストリングスアレンジで萩田光雄など。自分にとってライトメロウ系のシティポップといったらこのアルバムで、もう長いこと聴き続けている。ラジの透き通るボーカル、高橋幸宏後藤次利らによるブリーズ感と憂いのある楽曲、手練のミュージシャンによるライトメロウな演奏(特に鈴木茂のギターが最高)、どれをとっても一級品。


Rajie - HOLD ME TIGHT (1977)


Rajie - It's Me.. It's You


RAJIE & YOSHITAKA MINAMI - The Tokyo Taste (1977)

華麗なストリングス軽やかなラジのボーカルが視界を開かせるアルバムオープナーの(1)「HOLD ME TIGHT」や冴え渡る鈴木茂のギターに悶絶するライトメロウ(3)「It's Me.. It's You」、流線形もオマージュを捧げた南佳孝とのデュエットによる永遠のアーバンスタンダード(6)「Tokyo Taste」加藤和彦&安井かずみコンビによる名曲(8)「気分を出してもう一度」など、どの瞬間を切り取っても完璧と思える一枚。


佐藤菜々子 "FUNNY WALKIN'" (1977)

Funny Walkin’

Funny Walkin’

 

元祖ウィスパーヴォイス・佐藤奈菜子の1977年リリースのファーストアルバム。プロデューサーは大野雄二、作曲は佐藤奈菜子とデビュー前の佐野元春によるもの。同時代のフュージョンに寄っていくシティポップスが多い中で、このアルバムはラグタイムとかスウィングジャズ、あるいはロックンロール(「ロック」に非ず)を参照としたポップスが中心。ゴージャスでシネマティックでありながら日本の歌謡曲的な要素が一切排除された洋モノ志向は今聴いてもお洒落で、「元祖渋谷系」と呼ばれることも納得(佐藤奈菜子はピチカート・ファイヴの代表曲のひとつ「Twiggy Twiggy」の作詞作曲者でもある)。


Nanako Sato (佐藤奈々子) - サブタレニアン二人ぼっち

その中でもシティポップ的な耳に引っかかるのはやっぱり(1)の「サブレタニアン二人ぼっち」。軽快でゴージャスなアレンジと動き回るベースに決まりに決まったブレイク。そこから1分に満たないピアノバラード(2)「トワイライト」になだれ込む流れはなんとも洒落ている。

  

今井裕 "A COOL EVENING" (1977)

A COOL EVENING

A COOL EVENING

 

 サディスティック・ミカ・バンドサディスティックスに在籍したキーボーディスト、今井裕による1977年リリースのソロアルバム。ミカバンドやサディスティックスで推し進めた航海趣味の延長で南の楽園にたどり着いてしまったかのような似非トロピカルムードに貫かれたトータルアルバム。高中正義後藤次利斉藤ノブ林立夫浜口茂外也細野晴臣といった錚々たるミュージシャンシップに溢れたメンバーが参加していながらも、「この軽い感じが好きなんです、重苦しい話は抜きにして」というリラクシンなムードに貫かれた最高のリゾートミュージック。残念ながらYoutube上には音源は上がっていないようだが、今すぐアップルミュージックにすっ飛んで最高に洒脱な(1)~(2)の流れにトバされて欲しい!

 
稲村一志と第一巻第百章 "フリー・フライト" (1977)

フリー・フライト+5

フリー・フライト+5

 

 「北海道のシュガーベイブ」の異名を持ち、デビュー当時に大瀧詠一からナイアガラにスカウトされたという逸話の残る稲村一志と第一巻第百章のデビューアルバム。第一巻第百章としてのアルバムはこれが唯一のもので、稲村一志は本作リリース後も2014年に逝去するまで地元北海道に根ざした活動をしていたようだ。小坂 忠、あるいは歌の上手い細野晴臣といった趣のジェントリーなボーカルに、フリーソウル的なグルーヴと軽さのあるサウンドはまさにニューミュージック前夜の豊穣なバンドサウンドを体現。スウィングする(8)「今のままなら」シュガーベイブを彷彿とさせるサンシャインポップスな(11)「恋は急ぎ足」など、土臭さがありながらどこまでも洒脱なアレンジとボーカルが本当に素晴らしい。が、何と言っても白眉は、(4)「恋をするなら」


稲村一志と第一巻第百章-恋をするなら

程よくライトメロウなアレンジと圧倒的なメロディーセンス。例えばこの曲が今のクラブで掛かっていたとしても全く違和感なくフロアを盛り上げるであろうアンセミックな一品。北海道の地で密かに醸成されたシティポップの極北。

 

惣領智子"City Lights By The Moonlight"

www.discogs.com

惣領智子1977年リリースのセカンドアルバム。未だCD化はされていないが、アップルミュージックでは聴ける代物。このタイトル、このジャケットでもう間違いのないことを確信できる一枚。まず表題曲(1)「City Lights By The Moonlight」が素晴らしい。


City Lights By The Moonlight

Youtube上には惣領智子バージョンがなかったので、惣領泰則&ジムロックシンガーズバージョンを。惣領智子バージョンもいいけどこちらも素晴らしいですね。惣領泰則は惣領智子の夫で、シングアウトに参加したのち米国に渡り現地の音楽に触れた後帰国し、ジムロックシンガーズを結成して活動していた音楽プロデューサー。ジムロックシンガーズには惣領智子も参加。智子バージョンは、ボサノヴァフュージョンのクロスオーバーサウンドがシルキーなエレピの音とボーカルに彩られ、見事に都会的なポップスに落とし込まれた名曲で、これぞシティポップスだと感じる一曲。作曲は惣領泰則、作詞は西岡恭蔵。他にもアンニュイなシティウォーキン(2)「信号機」、コケティッシュなボーカルで歌われる70'sモータウン風のフリーソウルが最高な(9)「I Say Who」など、ティンパン関連とはまた違った人脈ながら質の高いシティポップスを聴かせてくれる。


Tomoko Souryou - I Say Who (1977) [Japanese Soul/Motown]

 

滝沢洋一 "レオニズの彼方に" (1978)

レオニズの彼方に +4

レオニズの彼方に +4

 

 70'sシティポップスの隠れた名盤、滝沢洋一『レオニズの彼方に』。初CD化されたのが2015年ということもあり、まだまだ浸透度の低い一枚だが、これは本当に素晴らしい。滝沢洋一はハイファイセットに「メモランダム」やクレスト・フォー・シンガーズに「ラスト・ダイアリー」などを提供する村井邦彦の息のかかったアルファ系のソングライター。その後にデビュー作にして唯一の作品となる本作をリリースしたが、当時はあまり評価されなかったようで、一部のシティポップスファンにのみ認知されていた不遇のシンガーソングライター。そんな作品がこうして簡単にサブスクで聴けるようになったんだから、なんともまあラッキーだなと感じます、、。内容はと言えば、全曲のアレンジをあの佐藤博が手がけていることもあり、洒脱なクロスオーバーサウンドを志向していながらも、決してその色が強くなり過ぎることがなく、滝沢洋一の独特なソングライティングの力が生かされた作品となっている。


滝沢洋一 メモランダム


Yoichi Takizawa - Leonids no kanata ni


Yoichi Takizawa - High up to the sky

 滝沢の気品と若さの感じられるボーカルで静かに愛を囁くミドルチューン(6)「優しい朝のために」ハイファイセットへの提供曲のセルフカバー(3)「メモランダム」、バックバンドのグルーヴィーな演奏が光る夜間飛行ナンバー(4)「レオニズの彼方に」など、滝沢洋一のソングライティングと歌が佐藤博のアレンジと絶妙に溶け合い、無二の空気が詰まっている。AOR一歩手前のフォーキーな、それでいて洒脱、という好きな人にはたまらない一枚。 


桐ヶ谷仁 "MY LOVE FOR YOU" (1979)

My Love for You +1

My Love for You +1

 

 シンガーソングライター桐ヶ谷仁のファーストアルバム。アルファ初の男性ソロアーティストで、当時の狙いはマイケル・フランクス風のソフト&メロウだったとか。アレンジャーは佐藤博が一曲、坂本龍一が六曲、松任谷正隆が四曲を担当。参加ミュージシャンはもはやお馴染みのティンパン〜YMO松任谷正隆ユーミン周辺のミュージシャン。レアグルーヴ的な観点からは物足りなさを感じる一枚かもしれないが、桐ヶ谷仁の持つメロウでフォーキーな資質が端正なアレンジで彩られた佳作。何より桐ヶ谷仁のノーブルなボーカルがとても良い。


Jin Kirigaya - Return To The Sky (1979)


Jin Kirigaya - Shiosai - 1979


桐ヶ谷仁-あなたがいる人生

日本のマイケル・フランクス、というには少し日本的な情緒に傾き過ぎているかなという感じがしなくもないが、大仰になり過ぎることなく全編通して貫かれるフォーキー&メロウな質感は充分に今の耳に引っ掛かるものがある。 

 

おわりに

まずレア盤も含めてこれだけの音源を盤を手にせずとも聴けることが本当に最高だなと思いました。かつてはディスクガイドを手にしても盤を買ったり借りたりする金銭的余裕がなかったりして、なかなか体系的に音楽を聴くことが難しかった(それでも頑張っていたけれども、、)が、サブスクによって本当にディスクガイド片手に音楽を聴くことが楽になったし、ディスクガイドが楽しくなった。その上で、まだまだ買わなきゃ聴けない音源は沢山あることも痛感。今回の括りだと、やまがたすみこ桑名晴子笠井紀美子アン・ルイスとかそのあたりは聴けなかった(もちろん御大山下達郎もサブスク解禁されていない)。とはいえ、聴けないものだけを狙い撃ちして買うかと言えばそうでもなく、上に挙げた音源を中古レコード屋で見つけたらたぶん全部欲しくなるんだろうなと思います。当然といえば当然ですが、聴く行為と買う行為は完全に別の欲望なんだな、と。

それにしてもティンパン系の人脈は強いですね。彼らを追っていればこのジャンルの9割位はカバーできるんじゃないかと思うほど(とはいえ、それも追いきれないほど多くの音源に関わっているから恐れ入ります、、)。いっぽうで、そこからこぼれ落ちる1割の音楽に宝石のような煌めきを放つモノに出会えることもこのジャンルの面白いところで。まだまだ宝は眠っていそうです。

次は「80's編」もしくは「王道編」をやろうかなと考えています。

 

参考にしたディスクガイドはコチラ↓ 
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ここに挙げた音源は全部これに載っているアルティメットガイド本。

 

シティ・ソウル ディスクガイド シティ・ポップと楽しむ、ソウル、AOR & ブルー・アイド・ソウル

シティ・ソウル ディスクガイド シティ・ポップと楽しむ、ソウル、AOR & ブルー・アイド・ソウル

 

 ほぼ海外モノのディスクガイドですが、年代毎の章あたまに掲載されている10枚の日本モノは全部聴かねばと思わせてくれる一冊。